「東京で独立する意味はない!」
目の前で、弟がはっきりと言い切った。
えっ?
一瞬、言葉を失った。
コンサルタントとして、
金沢ではなく、東京で独立したほうがいいのでは?
そう思い、東京で働く弟に聞いたのだ。
「確かにニーズは多い」
そう。そう思って、東京で独立、と考えたのだ。
「でも、その分、ライバルも多い」
まあ、確かに既存業者は多いだろう。
「そんなレッドオーシャンの中に、人脈もない兄(にい、と呼ばれている)が参入するのは無謀」
レッドオーシャン、すなわち血の海とは、
ライバルと血で血を洗う激しい競争が存在するマーケットのことだ。
「それより金沢で、地方創生がらみの案件を銀行とタッグを組んで掘り起こすほうがいい」
理由は、
「地方にはニーズがあるのに対応できるライバルが少ないから」
さらに、
「東京の大手は、最低5,000万円のフィーの案件しか相手にしないので参入してこないから」
だという。
東京に行けばなんとかなる。
漠然とそう思っていた。
「兄(にい)の理想は分かるけど、東京に出るのは、金沢で実績を積み信用を築いてからの話だ」
う〜む。
昔なら、
何を偉そうに!
と、ボコボコにしていたとこだ。
しかし、彼は今や、東証一部上場企業の役員だ。
彼の言葉には重みがあり、言い返せない。
その晩、東横イン新宿歌舞伎町の部屋で考えた。
東京はやめだ。
金沢で勝負しよう!
金沢で成功を収め、
今度弟と会うときは、ギャフンと言わせてやる。
なんて大人気ないこと。
でも、少しいらいらする。
弟にではない。
自分にだ。
独立を目指してもう2年。
なのに、まだこんなところをうろうろしている。