「僕の髪が肩までのびて君と同じになったら、約束どおり町の教会で結婚しようよMMMM」
1972年1月にリリースされた、よしだたくろうの大ヒット曲「結婚しようよ」の出だしだ。
残念ながら僕の髪が肩までのびることはなかった。
ハゲにのびる髪はない。
いや、実はちょっとある。
正確に言うとサイド部分にはけっこうある。
髪はそこだけのびていく。
犬なら可愛い。
人は可愛くない。
どちらかというと、汚い。
だから、散髪は必要だ。
僕のトラウマは、大学一年生のとき。
散髪屋で、店主が僕のつむじを見ながら、
「これ必ずハゲるね」
と断言したことだ。
衝撃だった。
一瞬、ぼうぜんとした。
(いま、ハゲって言ったか、おっさん!?)
ハゲ、という言葉は口にも耳にもしたくないことば、第一位だ。
僕には、
励ますが「ハゲます。」と言い切ったように聞こえる。
ついでにいうと
激しくが「ハゲ」しく、に聞こえ、
アゲハ蝶は、ア「ゲハ」蝶と区切って読んでしまう(逆でも駄目だ)。
多分「ハゲ天」で天ぷらを食べることもないだろう。
結局、その散髪屋には二度といかなくなった。
そして、別の散髪屋で少ない髪をごまかすため、パーマをかけて髪を「盛った」。
もしかしたらそれが悪かったのかもしれない。
社会人になってパーマした髪を元に戻すと、顔と頭の境界線がなくなっていた。
顔を洗うとき、どこまで洗うべきなのか自分でわからなくなってしまったのだ。
だから、顔をゴシゴシした両手をそのまま頭まで伸ばせば、一気に頭まで洗えるようになった。
シャンプーいらなくて、いいじゃん。
いやいやいや。嬉しいわけないよね。
で、もうそのころになると、取り返しのつかないくらい、日に日に状況は悪化していた。
ハゲたら結婚できない。
そう信じていた僕は、
仲良くなった女の子に
「結婚を前提に付き合おう」
と、いつの時代に生きてんだよ、お前は!?
というセリフを、連発するようになった。
ここまでをまとめよう。
結婚相手を見つけるのと、
髪の毛がなくなっていくスピードと、
どちらが早いか。
その頃は、そんな競争になっていたのだ。
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