青春18きっぷの夏旅で、
いちばんのおすすめは山陰本線。
佐津、鎧(よろい)、諸寄(もろよせ)、浜坂、香住(かすみ)。
初めて行ったのは19歳のころ。
そのとき見た風景と変わりない姿が今でも残る。
しかし、青春18きっぷの旅は、
なにも鉄道に乗っているばかりではない。
昨夏行った、宿場町の馬籠(まごめ)・妻籠(つまご)。
中山道のトレイルを思う存分楽しんだ。
金沢からなら、米原経由で名古屋に出て、
中央本線で中津川まで行き、前泊。
翌朝、バスで馬籠へ向かう・・・。
「木曽路はすべて山の中である」
島崎藤村の『夜明け前』の冒頭そのまま、
馬籠はあたり一面、山だった。
急な坂道沿いに再現された宿場町。
炎天下、その急傾斜を登り、観光案内所へ寄る。
500円払うと荷物を妻籠まで運んでくれるのだ。
身軽で歩けるのでありがたい。
馬籠―妻籠間は、約9kmの山道。3時間を見ている。
ここ馬籠宿を抜け、まずは馬籠峠まで登り道。
あとはほとんど下りという。
(ラクそうだ)
だから足元もサンダル。
天気もいいので、思索にふけりながらのんびり行こう。
と、タカをくくっていたのだが、
歩いてみると急な坂道の連続に、息も切れ切れ。
おまけに、いたるところに
「熊出没注意」の看板と熊除けの鈴がある。
(木曽路に熊っているのか?)
知らなかった。
半時間歩いても誰一人出会わないし。
吹き出す汗が一気に冷える気がした。
それでも、なんとか馬籠峠到着!
暑いわ、しんどいわ、心細いわ、
思索にふける余裕など、ここまでなかった。
妻籠までまだ半分も来ていないが、
ここからは下り。
(こんどこそ哲学的思索にふける余裕もあるだろう。)
と、懲りずに、タカをくくっていたら、
急な下りにサンダルが非常に危険なことに気づいた。
足を挫けば、先には進めない。
足を滑らせれば、深い崖に落ちて帰らぬ人に。
(足元にしっかり注意して、慎重に歩こう)
(あと、熊に会わぬよう歌ったり口笛吹いたりして、陽気に歩こう)
忙しい。
思索にふけるどころではないのだ。(旅はつづく)