江戸時代、庶民は数学を趣味として楽しんだ、
という。
その数学とは「和算」。
日本独自に発達した数学だ。
数学なんて役に立たない!
という人は多いが、
それでも、
江戸時代、数学は、
茶道、華道などと同じ芸事のひとつとして、
人口に膾炙(かいしゃ)されていたらしい。
ただ、そんな実用に供さない和算も、
天文暦学には応用された。
冲方丁(うぶかた とう)著『天地明察』は、
和算に生きがいを見出した渋川春海が、
改暦という一大プロジェクトに挑む大河小説だ(2009年11月刊)。
我が国では、
貞観四年(862)から貞享元年(1684)までの823年間、
中国から輸入した「宣明暦」が使われていた。
しかし、長期にわたり使われていたため、
実際の日月の運行から2日のズレが生じるようになった。
そこで、幕府の命を受けた渋川春海が、
初めての日本の暦法「貞享暦」を作り、
改暦の儀にこぎつける。
波乱万丈のストーリーはもちろん、
算額奉納や遺題継承など和算の特徴、
算盤(さんばん)や算木(さんぎ)などの和算の道具、
和算の第一人者、関孝和など、
和算のオールスターが勢ぞろいで、読み応えじゅうぶんだ。
第7回本屋大賞を受賞した本作は、
コミック化もされ(全9巻)、
さらに、
2012年、V6の岡田准一主演で映画化された。
ヒロイン(村瀬えん役)・宮崎あおいの笑顔が素敵で、
141分の長尺だが、飽きずに観ることができる。
この作品のあと、
50歳から天文・暦学を学び、
初めて日本全図を作った伊能忠敬が主人公の
井上ひさし著『四千万歩の男』(全5巻・未完)
と続く。
50歳から数学分野を勉強して大成した、
という生き方に励まされる、
57歳の私!