金澤町家で和食。
金沢を味わう王道だ。
半年間、毎月通った店がある。
店の名は、
「酒屋彌三郎(やさぶろう)」。
ここは、創作和食とワインのお店。
21世紀美術館(21美、と地元民はいう)近くの古い町家を改装した一軒家だ。
まず、雰囲気がいい。
古い引き戸を開け、まっすぐ行くと突き当たりにカウンターがある。
天井が高いうえ、テーブル席は、引き戸で仕切られている
だから、カウンターのある空間は静かだ。
ひとりゆっくりワインと料理を楽しめる。
ワインはオーガニックワイン。
この店の料理によく合う。
銘柄はお店任せだが、ハズレなしで美味しい。
たとえばパテには、ロゼと赤の飲み比べを勧めてくれた。
料理は、地元の食材を使った創作和食。
絶対外せないのは、
ワイン、パンチェッタを使ったソースがけのポテトサラダ。
酒粕で和食の風味が加わったクリームチーズもワインと合う。
ただの冷奴も、ちりめんじゃことかつおぶしだけで
立派な一品に仕立てられている。
旬の一品も楽しみだ。
七尾港のなまこ酢も絶品だったが、
今の季節、富山の氷見港に上がる寒鰤(ぶり)が旬だ。
店主の荒木さんが、
「旨味を味わってもらうため、脂を少し抑えた身を使った」という刺身。
本当に上品な味わいだった。
予算は、
ひとりで行って、グラスワイン3-4杯、料理3-4品で、6-8千円くらいの目安だ。
この雰囲気、素材の確かさ、料理の旨さを考えると、妥当なところだ。
それにしても、この時期、北陸は雨か雪ばかり。
21美からビルが立ち並ぶなか店まで歩くと、
突然築100年超の町家が現れ、
まるで異空間に足を踏み込んだ感じがする。
そして、どしゃ降りの雨。
店は雨の帳(とばり)に包まれていた。
それは、金沢出身の泉鏡花が描いた幻想の世界のよう。
ことばにできない、この不思議な感じ。
これもまた酒屋彌三郎の魅力なのだ。
この店を最初に見つけたのはこの本で!
『ふだんの金沢に出会う旅へ』(改訂増補版/2017.9.1発行)